INTRODUCTION
私たちはハイキングが好きだ
九州自然歩道をぐるっと一周3,000kmをスルーハイクしてもいいし、
山地を縦走するセクションハイクも、のんびり日曜シティハイクもいい。
温泉に入れない日もあれば、藪漕ぎの道もあるかもしれない。
きっと、非日常が目線を変えてくれる。
九州にはみちが足元に広がっている
(Photograph:Yusuke Watanabe , You Harada / Text:You Harada)
OUTLINE
【山行日】
2023年5月15日〜16日(1泊2日)
【行程】
皿倉山〜福智山〜増渕ダム〜石原町〜平尾台〜勝山〜呉ダム手前
【総距離】
約50km
【活動時間】
約19時間
【獲得標高】
登り2268m・下り2826m
STORY
皿倉山〜福智山〜ます淵ダム
時刻は朝の8時。集合場所へ向かう道中、私はバックパックを抱え車窓にへばりついていた。運よくホームドアに体を預けることができたが、通勤ラッシュと重なったようだ。外を眺めると、右から左へ流れるように建物が過ぎ去っていく。その先に佇むものがあった。スタート地点の皿倉山だ!
山頂を目指さないゆるっとしたハイキング。日常から少し離れた歩き旅。そんなロングトレイルが九州にもあったら面白いよねと以前から仲間と話していた。そこで見つけたのが九州自然歩道だった。
九州自然歩道とは1975年(昭和50年)に長距離自然歩道として整備されたトレイルで、九州をぐるっと1周繋げた道は約3000kmにも及ぶ。知らなかっただけで、私が暮らす土地にすでに歩くための道があったのだ。
他の島からたくさんの旅人がこのトレイルに来ることを想像する。地域のためとか友達が増えるとか仕事になるとかあるけれど、単純に心がワクワクした。それがハイキングの良さだと思う。もちろん、歩きはじめた日もそうだった。
電車を降りた時に吹いた風は初夏を感じさせた。5月の新緑が萌える季節。八幡駅に着くといたのはシュウさんだった。「おう、久しぶり。」人々が足早に過ぎ去っていく中、ベンチに座ってパッキングしながら待ってくれていた。後ろからは「おはよ〜」と、ゆうすけさんとミサトさんが声をかけてくれて、遅れてババッチもやってきた。さて、Hike!Kyushuの起点に向かおう。
久々の山行に息が弾む。じんわりと染み渡るように身体が高揚していく。心地いい疲労感。
皿倉山から福智山にかけてのピークは、小刻みなアップダウンが続いた。詳細はYAMAP参照。
膝に古傷があるメンバーは「荒宿荘に1泊もいいよね」と言った。
その時の体調やパーティによって歩く計画は変えるべきだと思う。今日はどうだろう?時刻は夕刻。陽が傾きかけていた。「計画通り、もう少し、行こうか。」ひとりだったら諦めていた気がするが、先に進むことに。ここからは下山して、ます淵ダムへと下る。
ます淵ダム〜平尾台〜勝山〜呉ダム
朝起きると、顔にポツリと雫がかかった。ツエルトに露がついている。シュラフもじんわりと濡れていて、ちょっとめげてしまう。こんな時、山道具が欲しくなる。あれがあったらよかったかなぁ。今はグダグダ言っても仕方ないので、早々に家を出て、外の空気を吸う。冷たさが肺の中に入ってきて、気持ちのいい朝へと変わった。
珈琲を沸かしているとミサトさんがやってきた。一緒にグラノーラを食べながら地図を見る。今日の行程は平尾台のカルスト大地を越えて、行橋を通り、香春街呉ダム渓流公園まで向かう。平尾台にある太平山が標高としてはピークだろうか?でもその後のコンクリートロードも長いね。と、行程を想像しながら頭の中で共に歩いた。他の人たちはまだ寝ているようだった。ふと、メンバーのテントが目に止まった。テントは多様だった。誰一人として同じものはない。あ、扉がないテントがある。シュウさんだった。シュラフに包まって寝ている。ウインナーみたいだね、と二人で笑いあった。
福智山を下山して平尾台までは車道歩き。
地図通りに歩くのもいいが、私たちはたまにアレンジを加える。
地図のルートでは車道を指しているが、私たちは旧登山道を選んだ。
車が行き交う道よりも、単純に山路が好きなんだ。
あまり高さは気にしない。それよりも影があって欲しい。
九州自然歩道は山とまちを交互に歩く。それは人の軌跡を辿るようだと思う。歴史の古い道もあれば、最近作られた車道もある。山の中には昔ながらの茶屋もあれば、石灰岩の採掘の音を間近で聞くことができる。知らないだけで、誰かの軌跡があるのだろう。
今回のゴールは香春町呉ダム渓流公園。もちろん自分たちで設定したから、レースのようにゴールテープはない。あっても、自販機くらいだろう。「キンキンに冷えたコーラが飲みたいなぁ」と呟くと、メンバーたちが地図を開いて「もう少し歩くと、ビールが飲める店があるよ!」なんと!!!
私は九州自然歩道をいつもひとりで歩く遊びをしていたんだけど、こうやって人と歩くと新しい何かが起こるんだな。
さて、ラストスパート!
遅れてトンネルを抜けると待ってくれていた。
まだ道は続くのでゴール感のあるモニュメントはない。けれど、最後にこの光景はいいと思う。
ビールと定食をたらふく味わって、次へと向かうのだった。今日もおつかれ山!
今回、私たちはYAMAPを使って1泊2日の歩き旅を計画した。
記録を読むとわかるように、通行止めや迂回しなければならない道もある。私たちも情報を残しているが、時間が過ぎるたびに情報は劣る。そこで、歩いた人はぜひYAMAPのフィールドメモ機能を使って情報を書き込んで欲しい!そのひと手間が、きっと誰かの道に繋がるはず!