自然歩道と人  episode#️1  「山小屋の苗」 

INTRO


はじめまして。もしくは、お久しぶりの方もいるかもしれません。Hike!Kyushu事務局メンバーの原田優です。数年前から「歩く」と「書く」を掛け合わせるのが好きで、この度は機会をいただきました。歩くときのようにゆっくりと気長に書いてみようと思います。


『自然歩道と人』
さて、今回のシリーズについてです。『自然歩道と人』と名づけました。「自然歩道に関わる人に焦点をあて取材をしたい」という思いを込めています。日本のロングトレイルが盛り上がりを見せる中、一体どんな人が支えているのだろう?単純な好奇心からです。自然歩道と人が交差していく今を切り取っていこうと思います。

記念すべきepisode#1は堀田響志郎さん。現在(執筆時は2024年の夏)、アメリカのPCT(パシフィッククレストトレイル)を歩いています。彼はPCTの練習のために九州自然歩道福岡セクションを歩いていました。その帰りに偶然、HIKING BASEで出会いました。

舞台は福岡県宝満山にある「楞伽院山荘(りょうがいんさんそう)」。山小屋までの道を歩きながら取材しました。はじまりの物語、ぜひお読みください!


(Photograph/ Text:Yu Harada)

今日のバディ: 堀田響志郎(Hiker name:ホリキョウ)
サングラスをかけると強面だが、外すとちゃーみんぐ。元保育士。現在(2024年)、アメリカのパシフィック・クレスト・トレイルを歩いている。instagram horikyouのインスタはこちら

STORY

山小屋「楞伽院山荘」

福岡県の宝満山には楞伽院山荘(りょうがいんさんそう)という山小屋がある。山頂から近い場所にあるので、休憩場所やテント場として使われている。数年ぶりに訪れると、今日もここは穏やかな時が流れていた。ベンチでお弁当を広げている人。木漏れ日の下で読書をしている人。「来週はどこへいこうか」と次の行き先に思いを馳せる人もいた。ふと、彼らがくつろいでいる場所が目に入る。ベンチは苔むすこともなく、綺麗に整備されている。芝はペグが簡単に刺さりそう。

「ここは小屋番さんたちが管理してくれているんよ。」

今回、九州自然歩道を一緒に歩いたのは福岡県久留米市のハイカー堀田響志郎さん(ハイカーネーム”ホリキョウ”)。宝満山の小屋番と仲のいい青年だ。

「小屋番」とは、小屋を守る人たちの総称である。楞伽院山荘を軸に山の環境整備などの活動をしている。山小屋に入ってみると、壁には山の写真が飾られており、歩く人たちの姿がある。床はごろんと寝転がりたくなるほど掃除が行き届いていた。常在のない山小屋の多くは荒れていることが多いが、ここは時が止まっていない。きっと、人の思いがあるからだろう。

宝満山の頂から東に降りていくと赤い屋根の山小屋がある。これが楞伽院山荘だ。

半世紀以上前につくられた小屋はプレハブからはじまった。改築を経て現在はログハウス調に。

無人小屋は埃っぽいことが多い。誰かが掃除をしてくれているのだろう。綺麗な室内はいつでも泊まりたくなる。

小屋にある九州の山ポスター。左端に小さく宝満山がある。

小屋番と出会った大晦日

彼と小屋番さんとの出会いは大晦日のことだった。コロナが明けた年のある日。家でスマホ検索をしていたら、たまたま宝満山の「難所が滝」を見つけた。氷瀑、雪山…見たことのない景色に思いを馳せてしまった。山にほとんど登ったことはなかったが、長年バスケで鍛えた体力を信じて、持っていた道具をバッグに入れ、車を走らせた。

取材時は竜岩自然の家から三郡山と宝満山を経て、竈門神社を抜けるルートを歩いた。

九州自然歩道と合流地点まで車道を歩く。

分岐にあった標識。夏場は草に埋もれそう。ここから九州自然歩道の標を頼りに歩く。

航空局ゲートを発見。「関係車両以外の通行を禁ず」とある。問い合わせたところ、自然歩道歩行者は通っていいとのこと。

「ほら、みてよ!」少し傾いているが、ゲートを潜った先には標があるのでご安心を!

車道と山道を繰り返しながら傾斜を登っていくと…

航空監視レーダーに辿り着く。九州自然歩道はいろんな道と重なっていることが多い。今回は空の人の道。

三郡山の山頂に到着!標高は935.9m。休憩も束の間、先へ進もう。

九州自然歩道は宝満山まで尾根づたいを行く。
「この看板、朝日をみるために山を駆ける時、いつも目に止まるんよ。」

三郡山から宝満山頂にかけて、花崗岩が露出している。最後は鎖場を使って岩壁を登る。

山頂に着くとあるのは竈門神社の上宮。宝満山の麓には太宰府天満宮があり政が行われていた。御社殿は遥か海の彼方を眺めているようだった。

福岡の街並みが見える。
「生い茂っていたけど、木々を誰かが剪定してくれとるね。」

難所が滝を見終えた帰りのこと。休憩しようと道中に見つけた山小屋に入ってみると、思いもよらぬ光景が現れた。年齢も性別も、さまざまな人が車座になって宴会をしている姿だった。後から聞くとその日は、小屋番さんの1年間お疲れ様会だった。

扉を開けたホリキョウは遠慮がちに小屋の隅に座って食事をとる。持参したのはカップ麺。すると、小屋番のひとりが声をかけてくれた。「あなた隅っこで食べよって、さみしかろうもん、こっちおいで!」「箸はある?」「お皿は?」はじめてだったので、山登りに皿が必要なんて知らなかった。皿を貸してもらい、鍋やビールもいただいた。年の瀬の山中。きっと寒いだろうと思っていたが、山小屋は暖かい場所だった。その後、宝満山に登る回数が増え、小屋番と仲良くなったのは自然なことだった。

植えた石楠花

ホリキョウの思い出話を聞き、山小屋を後にした。下山途中に見つけたのは石楠花の花だった。「小屋番さんと一緒に、植樹をした苗です。」木板のひとつひとつにメッセージが書かれてある。竈門神社で開催されたYAMAPの企画イベントの植樹だった。山麓で植樹をした後、余った苗は山荘まで担ぎ上げた。背負うと若い苗は折れてしまうので、赤子のように手で抱えて登ったという。

ホリキョウのインスタグラムにその時の記録がある。
登山道の脇にツクシシャクナゲが自生・群生していたが、盗掘や地質の変化などによって数が激減。集ってツクシシャクナゲの苗木を植樹した。

昔は山伏が修行として使った石畳の階段だ。体力に自信のあるホリキョウでも根をあげそうになった。小屋番さんたちは山の先達といっても、高齢の方が多い。若い自分が役に立てればと、最後まで運んだ。「仕事があるので毎月はいけないけど、たまに小屋番の仕事を手伝っています。建物の修理、水場やトイレの手入れ。人が集まるので、山の情報も教えてもらえます。」言葉にすると単純だが、なかなか行動に移せる人は少ない。

話は飛ぶが、ホリキョウは現在(2024年)アメリカのパシフィック・クレスト・トレイル(Pacific Crest Trail)を歩いている。「恥ずかしながら、小屋番の人たちに壮行会を開いてもらってね。」無事に帰ってこいよ!とたくさんの人に見守られ、旅立った。帰ってきたら、きっと山小屋で話を咲かすのだろう。

九州自然歩道を歩く時は見つけて欲しい。山小屋にある石楠花を。
まだ植えたばかりの若い苗であるが、今日も赤い花を咲かせているはずだ。

以下リンク

楞伽院山荘 無人小屋であるが、小屋番が定期的に管理している。テントは25張は張れる。小屋利用は休憩50円、宿泊500円。テント泊は無料。水場は近くにあり、トイレはバイオトイレが設置してある。テント泊でも小屋泊でも、利用の際は声をかけよう!

YAMAPの企画「ツクシシャクナゲが咲き乱れる風景を蘇らせるために」 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人